
長年、親の介護をしてきたのに、遺産は兄弟と同じ割合でしか分けられないのでしょうか。
相続のご相談では、こうしたお悩みを伺うことが少なくありません。介護や家業の手伝いなどで被相続人(亡くなった方)を支えてきた方の貢献を、遺産分割で考慮する仕組みが「寄与分」です。
ただし、介護をしたことだけで寄与分が認められるわけではありません。認められるための要件があり、証拠の有無や、請求できる期間にも注意が必要です。
この記事では、寄与分の基本、介護が寄与分として認められる場合とそうでない場合、計算の考え方、請求の流れ、相続人以外の方が介護をしていた場合の特別寄与料までを、弁護士が解説します。

監修:弁護士 福世 健一郎
弁護士法人M.L.T法律事務所代表 / 保有資格:弁護士(千葉県弁護士会所属)
年間離婚相談実績200件以上、年間30件以上の離婚成立実績。「調停・裁判に強い」法律事務所として地域密着の弁護士法人の代表を務める。

監修:弁護士 福世 健一郎
弁護士法人M.L.T法律事務所代表 / 保有資格:弁護士(千葉県弁護士会所属)
年間離婚相談実績200件以上、年間30件以上の離婚成立実績。「調停・裁判に強い」法律事務所として地域密着の弁護士法人の代表を務める。
寄与分とは

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人に、法定相続分に上乗せして遺産を取得させる制度です(民法904条の2)。
遺産分割では、まず法定相続分を基準にしますが、相続人のうちの一人が被相続人の事業を無償で手伝ったり、長期間にわたって療養看護をしたりして、その結果、被相続人の財産が減らずに済んだ場合には、他の相続人と同じ割合で分けると不公平になります。この不公平を調整するのが寄与分です。
寄与分が認められると、遺産から寄与分を先に差し引き、残りを法定相続分などで分け、寄与した相続人は自分の相続分に寄与分を上乗せして受け取ります。
寄与分には2つの制度がある
寄与に報いる制度には、次の2つがあります。
- 相続人の寄与分:相続人が主張できる制度です。民法904条の2に定められています
- 特別寄与料:相続人ではない親族が、被相続人に無償で療養看護などの労務を提供した場合に、相続人に金銭の支払いを求められる制度です。2019年7月1日から施行されています(民法1050条)
「長男の妻が介護をしていた」というケースは、実務上、長男自身の寄与と同視して長男の寄与分として扱う考え方(同視説)で整理される場合と、後者の特別寄与料の対象になる場合があります。

詳しくは、後半の章で解説します。
寄与分が認められる要件

相続人の寄与分が認められるには、次のような要件を満たす必要があるとされています。
- 共同相続人であること:寄与分を主張できるのは、相続人です。相続人でない方は、特別寄与料の制度を使います
- 特別の寄与であること:被相続人との身分関係から通常期待される程度を超える貢献であることが必要です。夫婦の協力扶助や親子の扶養の範囲にとどまる行為は、原則として「特別」とは評価されにくい傾向があります
- 無償またはそれに近いこと:対価や生活費の援助を受けながら行った行為は、寄与分としては評価されにくくなります
- 一定期間以上継続していること:一時的な手伝いではなく、ある程度の期間、継続して行ったことが求められる傾向があります
- 被相続人の財産の維持または増加につながったこと:たとえば、介護をしたことで介護費用の支出を免れた、といった関係が必要です
寄与分には、貢献の内容により、次のような類型があります。
- 家業従事型:被相続人の事業を無償で手伝った場合
- 金銭等出資型:事業資金や不動産の購入資金などを出した場合
- 療養看護型:病気の被相続人の療養や介護を行った場合
- 扶養型:被相続人の生活費を継続して負担した場合
- 財産管理型:不動産の管理などを無償で行った場合
介護は寄与分として認められる?

介護は、寄与分のうち「療養看護型」にあたります。
ただし、親の介護をしたという事実だけで、寄与分が認められるわけではありません。
認められにくい傾向があるケース
民法は、親族間に扶養義務を定めています(民法877条1項)。親の介護がこの扶養義務の範囲内と評価されると、遺産分割の場面では寄与分として考慮されません。このハードルは低くないため、次のような場合は、寄与分として認められにくい傾向があります。
- 親が元気なうちの、通院の付き添いや買い物の手伝い程度にとどまる場合
- 介護を受ける方の症状が軽く、日常生活を大きくは助ける必要がなかった場合
- 週に数回程度、短時間の見守りや訪問にとどまる場合
- 介護に対して、被相続人から報酬や生活費の援助を受けていた場合
- 実際の介護は、ヘルパーやデイサービスなどの介護サービスが中心で、相続人の関与が限定的だった場合
- 看護や介助が十分に行われる施設に入所していて、相続人が付き添う必要性が乏しかった場合
- 日常の家事を手伝っていた程度の場合(期間が長くても、特別の寄与とは評価されにくい傾向があります)
認められやすい傾向があるケース
一方、次のような事情があると、寄与分として評価される可能性が高まります。
- 要介護の認定を受けている状態で、介護の負担が大きかった
- 長期間、継続して、日常的に介護を行った
- 仕事を辞めたり、勤務時間を減らしたりして介護に専念した
- 介護をしたことで、本来であれば必要だった介護施設の費用や、介護者を雇う費用を支出せずに済んだ
- 無償で行った
介護に関わらなかったきょうだいへの請求について

自分だけが介護をして、他のきょうだいは何もしなかったのに、遺産は同じ割合なのは不公平だ
というご相談もよくあります。
お気持ちは理解できますが、扶養義務を負う人どうしの負担をどう調整するかは、法律上、遺産分割とは別の問題と整理されています。
他の相続人が同意しない限り、遺産分割の協議や調停では扱えず、請求するには別の手続き(求償など)が必要になります。寄与分で評価されるかどうかと、扶養の負担の調整は、分けて考える必要があります。
介護の寄与分を主張するために集めたい資料
寄与分は、主張する側が事情を説明し、証拠で裏付ける必要があります。次のような資料が参考になります。
- 要介護認定の通知書、主治医の意見書、診断書
- ケアプランや、介護サービスの利用記録
- 介護日記、介護の内容を記したメモ、通院の記録
- 介護にかかった費用の領収書
- 介護のために仕事を休んだ、辞めたことが分かる資料
- 被相続人とのやり取りのメッセージ
介護の途中で記録を残しておくと、後で説明しやすくなります。すでに介護が終わっている場合でも、手元に残っている資料を整理するところから始められます。
寄与分の計算方法

寄与分に、法律で決まった一律の計算式や相場はありません。寄与の時期、方法、程度、相続財産の額などの事情を踏まえて、相続人の協議、または家庭裁判所が決めます。
療養看護型では、実務上、次のような考え方が用いられることがあります。
- 介護の専門家に頼んだ場合の費用(日当)の目安を基準にする
- その金額に、実際に介護した日数をかける
- そこに、親族による介護であることを踏まえた「裁量割合」をかけて調整する
親族による介護は、専門家の介護と同じ水準とは評価されない傾向があります。そのため、専門家の日当をそのまま使うのではなく、一定の割合で調整されるのが一般的です。
寄与分が決まったあとの相続分の計算は、次の順序で行います。
- 遺産の総額から、寄与分を差し引く(みなし相続財産)
- みなし相続財産を、法定相続分などで分ける
- 寄与した相続人は、2で算出した額に、寄与分を加えて受け取る
どの程度の金額になるかは、介護の期間や内容、証拠の状況で大きく変わります。見込みを知りたい場合は、個別に確認することをおすすめします。
寄与分を請求する流れと期間制限

寄与分は、次のような順序で請求していきます。
① 遺産分割協議で主張する
まず、相続人どうしで行う遺産分割協議の場で、寄与分を主張します。全員が合意すれば、その内容で寄与分を認めることができます。介護の内容や期間を、資料をもとに整理して伝えることが大切です。
② 遺産分割調停・寄与分を定める調停
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では、調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら話し合いを進めます。
③ 審判
調停でも合意に至らない場合は、審判に移り、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。
期間制限に注意が必要です
2023年4月1日に施行された民法の改正により、相続開始から10年を経過したあとに行う遺産分割では、原則として、寄与分を主張できなくなりました(民法904条の3)。
ただし、相続開始から10年が経過する前に、家庭裁判所に遺産分割の請求をしていた場合などは、例外があります。また、施行前に相続が開始していた場合には、経過措置が設けられています。
寄与分を主張したいと考えている場合は、期間を過ぎてしまわないよう、早めに相談することをおすすめします。
相続人以外の方が介護していた場合:特別寄与料


長男の妻が、長年、義父母の介護をしていた
というケースは珍しくありません。長男の妻は相続人ではないため、自分自身では寄与分を主張できません。
もっとも、妻の介護が相続人である長男自身の貢献と同視できる場合には、長男の寄与分として遺産分割協議の中で扱う考え方があります(同視説、包含説と呼ばれます)。一方で、長男がすでに亡くなっているなど、この考え方では妻の貢献が反映されない場合もあります。
こうした不公平を解消するために、2019年7月に特別寄与料の制度が始まりました(民法1050条)。
請求できる方
被相続人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)で、相続人でない方です。相続放棄をした方や、相続権を失った方は含まれません。内縁のパートナーなど、親族でない方は対象外です。
認められる貢献
被相続人に対して、無償で療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたことが必要です。従来の寄与分と同様に「特別の寄与」といえる必要があり、ハードルは低くありません。
請求の相手
相続人に対して、特別寄与料として金銭の支払いを求めます。
請求できる期間
特別寄与者が、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過すると、家庭裁判所への請求ができなくなります。期間が短いため、特に注意が必要です。
なお、特別寄与料は、相続税の申告などにも関わる場合があります。税務の取扱いについては、税理士にご確認ください。
特別な寄与に報いるための生前対策

介護をしてくれた家族に報いたいとお考えの方は、生前にできる対策もあります。
- 遺言書を作成する:介護をしてくれた方に、多めに財産を残す内容を遺言書に記載できます。相続人以外の方に遺贈することも可能です。ただし、他の相続人の遺留分に配慮する必要があります
- 生前贈与を行う:介護への感謝として、生前に財産を贈与する方法です。贈与税などの税金面にも注意が必要です
- 介護の費用や内容を記録しておく:将来の紛争を防ぐため、介護の記録を残しておくことも有効です
遺言書の内容によっては、かえって相続人どうしの対立が深まる場合もあります。内容や書き方については、専門家にご相談ください。
寄与分を弁護士に相談するメリット

寄与分は、相続人どうしの感情が絡みやすいテーマです。弁護士に相談することで、次のようなメリットが期待できます。
- 寄与分が認められる見込みを整理できる:事情を伺い、要件に当てはまるかを踏まえた見通しをお伝えします
- 必要な資料や証拠の集め方がわかる:介護の記録など、何を揃えればよいかをご案内します
- 交渉・調停・審判を任せられる:相続人どうしの話し合いや、家庭裁判所の手続きを、代理人として進めます
- 他の相続問題とあわせて検討できる:遺産分割、遺留分、遺言など、関連する問題を一緒に整理できます
- 期間制限を見落とさずに済む:寄与分や特別寄与料には、請求できる期間があります。早めの相談で、手続きの時期を逃しにくくなります
寄与分についてのよくあるご質問

Q. 同居して親の世話をしていただけでも、寄与分は認められますか?
A. 同居と日常的な世話だけでは、通常期待される範囲とされ、認められにくい傾向があります。介護の内容、期間、負担の大きさなどが判断材料になります。
Q. 介護サービスを利用していた場合でも、寄与分は認められますか?
A. サービスを利用していても、その合間や夜間などに、相続人が大きな負担を担っていた場合には、評価される可能性があります。実際の関与の内容が重要です。
Q. 介護日記などの証拠がありません。もう主張できませんか?
A. 資料がなくても、あきらめる必要はありません。介護認定の資料、ケアプラン、通院の記録など、手元に残っているもので事情を説明できる場合があります。まずはお手持ちの資料を確認してみましょう。
Q. 相続人の一人が寄与分を主張してきました。どう対応すればよいですか?
A. 主張の内容と、それを裏付ける資料を確認することが先決です。寄与分の評価は一律ではありません。感情的に対立する前に、内容を整理することをおすすめします。
Q. 長男の妻が介護をしていた場合、誰が何を請求できますか?
A. 妻の介護を長男自身の寄与と同視できる場合は、長男の寄与分として主張する方法があります。それが難しい場合には、妻自身が相続人に対して特別寄与料を請求する方法があります。期間が短いため、早めにご相談ください。
Q. 相続が起きる前に、できることはありますか?
A. 介護の分担や費用について、きょうだいで話し合っておくことが大切です。介護の内容、時間、費用の記録を残しておけば、遺産分割の話し合いで示しやすくなります。
Q. 遺言書がある場合、寄与分は関係ありますか?
A. 遺言書で遺産の配分がすべて決められている場合、遺産分割の対象となる財産がないため、寄与分を主張する余地が小さくなります。遺言書の内容によって扱いが異なります。
Q. 寄与分は、いつまでに主張する必要がありますか?
A. 相続開始から10年を経過したあとの遺産分割では、原則として寄与分を主張できません。特別寄与料については、相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年という短い期間があります。
まとめ/弁護士からのメッセージ

寄与分は、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人の負担を、遺産分割で調整する制度です。介護はその代表的な場面ですが、介護をしたことだけで認められるわけではなく、通常期待される範囲を超える貢献であることが求められます。
押さえておきたいポイントは、次のとおりです。
- 介護の寄与分は「療養看護型」にあたり、特別の寄与、無償性、継続性、財産の維持・増加といった要件が検討されます
- 親族間には扶養義務があるため、同居して世話をしていただけでは認められにくい傾向があります
- 金額に一律の相場はなく、介護の内容、期間、証拠の状況によって変わります
- 相続人でない長男の妻などの介護は、長男の寄与と同視する考え方や、特別寄与料の制度で検討できます
- 相続開始から10年を過ぎると、寄与分は原則として主張できなくなります。特別寄与料はさらに短い期間で請求する必要があります
- 介護の記録を残し、相続の前からきょうだいで話し合っておくことが、後のトラブルを防ぐ助けになります
介護を担ってきた方の思いが、遺産分割で十分に考慮されないと感じておられる場合は、期間を過ぎてしまう前に、一度整理してみることをおすすめします。M.L.T法律事務所では、寄与分や特別寄与料のご相談をお受けしています。資料が十分に揃っていなくても、まずはお話をお聞かせください。















